「天国街道」

私たちの病室の窓の外は、山が浅い狭間になっていて、そこまで診療棟の屋根が続いている。その先は再び山になり、尾根には看護婦寮が建ち、向かい側、南の斜面には院長初め職員の社宅が建っている。
看護婦寮の下、雑木林の中、一筋の小道がその奥に消えて行っている。吾々はそれを天国街道と呼ぶ。
道の先には、霊安室と解剖室が一棟の建物で建てられてあり、死者達はこの街道を、雑役の人の担う担架で運ばれていく。
(本文より)

「天国街道」とは、東京東村山の結核療養所「保生園」(現 新山手病院)の敷地にあった、病棟から霊安室にいたる林の中の小道です。筆者は、終戦直後に保生園に4年間入院し、そこでの経験を手記につづりました。結核をともに闘い、また敢え無く天国街道を担架で運ばれていく療友の姿、また、抗生物質も無い時代に懸命に治療に立ち向かった医師・スタッフの姿が描かれています。

これは結核がまだ「死病」と呼ばれていたころの、死と生の記録です。

「天国街道」は2006年に英治出版より出版されましたが、出版社の了承のもと、ここに全文を公開いたします。あわせて、著者によるオリジナルのあとがきや関連する写真もご紹介いたします。
(公開日:2020年5月26日)


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